そこでは、人間の尽きない欲望によって
土地が切り刻まれ、ねじふせられていた。

とにかく広い。この周辺だけで分譲区画が一万くらいともいわれているほどだ。

少し先のほうには、相当広い範囲 に土砂を採取したような跡がある。 反対のほうには、規則正しく並んだ 木々の列が見える。でも、その木は どう見ても深く根づいているように は見えない。グイと引けば簡単に抜 けそうだ。園芸業者かなにかがこの 土地を使っているのだろうか。
自動車やバイクのわだちがやたら に目につく。四輪駆動車やモトクロ スのバイクで走り回るには面白い土 地かもしれない。なにしろ、地面は グズグズなのだから。 次の現場へ移動することにしたが 案の定、車のタイヤは火山灰地にズ プズプとめりこみ、動かなくなって しまった。

一帯の火山灰地を削りとって整地 した分譲地。なぜ分譲地とわかるか といえば、点々と並ぶ杭のせいだ。 頭を赤く塗った白い細杭。何ケタも の番号と所有者の名前らしいものが 書いてある。 まるで卒塔婆のようだった。 人々の夢も幻想も、この火山灰の下 に眠っているにちがいない。


草ぼうぼうの道路をそれて、雑木 林に分け入る。クマザサが生い茂っ ている。去年調査した釧路の現場と 同じだ。 前のほうで上がった声に頭上を見 ると、木から木に渡した綱に赤い布 切れが結んである。なにかの目印だ ろう。
思ったとおり、じきに切りひらかれた土地に出た。ごく最近草を刈っ たようである。コンクリート杭が埋 設されていた。ここも典型的な測量 商法の現場だ。なぜなら、ここの土 地を割り出すための起点などわから ないからだ。さっきの草ぼうぼうの 道路のどこに起点を求めるというの だ。だからさっきの赤い布切れのよ うな目印をつけているのだろう。目 印がなかったら、詐欺師たちですら ここに戻ってはこられまい。このへ んー帯がほとんど同じ、見分けのつ かない林の中なのだから。
だが、見分けがつこうがつくまい が、この草を刈った土地も、来年の 夏には再び生い茂る草に覆われてし まうのだろう。


またしても火山灰地だ。木の杭が 無造作に投げ捨ててある。 「これは自然に抜けたんですよ」

北海道から参加したメンバーが教 えてくれた。「しばれあがる」、つ まり、凍てつく冬に土が凍り、じわ じわと杭を押し上げ、ついにははじ き出してしまうのだという。誰が抜 いたわけでもない。杭はひとりでに 抜け上がる。無駄なことはよしなさ いとでもいうかのように・・・…。

「ここに住もうと思ったら確かにき ついが、利殖だと割り切ったら結構 いけるんじゃないかなと思ってしま う。もちろんこれは錯覚ですけど。 都市部の感覚からいえば、空港とか 高速道路とか国道とかのそばにあっ て、そう遠くないうちに値上がりす るといわれれば、そうかなって。そういう気分にさせる条件がそろって いるのは事実だと思いますね」
東北地方のある都市から参加した メンバーの言葉は、全くそのとおり だった。都市生活者にとっては、こ の程度の緑だって潤沢な自然と映る はずだ。空港の隣接地といわれて無 価値の土地を想像する人は極めて少 ないだろう。
だが、時価が数十円〜数百円/坪 の土地を数万円/坪で売りつける原 野商法、さらにその被害を取り戻そ うとあせる心につけ入る測量商法、 そんなことが許されてよいはずはな い。そんな幻想を生み出すこれらの 土地は存在そのものが罪悪なのでは ないか。
いや、「罪悪」とは、あまりにも 軽率である。大地に責任があるので はない。これらの土地は人間の尽き ない欲望によって切りきざまれ、奴 隷のように扱われているのではない か。
そう考えながらふりかえると、私 たちの足跡を点々と残した火山灰地 が無言の抗議をしているように思え てならなかった。

七カ所の現場を歩き続けるうちに 私たちの口は次第に重たくなった。


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